在宅患者訪問薬剤管理指導料 処方箋なし

世界で最も高齢化が進んでいる国とされる日本においては、医療費や介護費などの社会保障費の増加が大きな問題となっています。持続可能な社会保障制度を確立するためにも、患者さんが安心かつ質の高い医療サービスを受けられる報酬制度の構築が必要です。そのために頻繁に行われる報酬改定において、薬局経営者は前回からの変更点やその要旨をしっかりと把握する必要があります。在宅訪問をこれから始める薬局経営者にも簡単に分かるように、報酬についてポイントを整理しました。

在宅患者さんへの薬剤師の訪問業務は大きく分けて、医療保険の対象となる「在宅患者訪問薬剤管理指導」と介護保険の対象となる「居宅療養管理指導(要介護)」、「介護予防居宅療養管理指導(要支援)」があります。在宅訪問業務を行う保険薬局は年々増えてきており、特に居宅療養管理指導を行う保険薬局の数が右肩上がりで伸びています。

居宅療養管理指導費算定薬局数

在宅患者訪問薬剤管理指導料 処方箋なし

参考:厚生労働省 第182回社会保障審議会介護給付費分科会(2020年8月19日)の資料を基に作成

さらに、国の施策でもこれらの算定件数を増やす方向性を示しており、経済財政諮問会議が決定した「新経済・財政再生計画 改革工程表2019」では、それぞれの算定件数を「2021年度までに2017年度と比べて40%増加」させることを目標として掲げました。このことから、在宅医療を進める方向での報酬改定が行われることが考えられ、それに伴って在宅訪問に乗り出す保険薬局はさらに増えていくことが想定されます。

これから在宅訪問を始めるにあたって、医療保険と介護保険において薬剤師が行う薬学的管理指導業務の内容に大きな差はありませんが、報酬の請求先や保険点数、加算の算定内容に違いがあるので注意が必要となります。さらに、入所施設の形態や患者さんの疾患名によって算定できないケースもあるため、その都度確認が必要です。医療保険対象者の訪問と介護保険対象者の訪問に分けて、それぞれの主な報酬制度について説明します。

居宅療養管理指導費・介護予防居宅療養管理指導費

単一建物居住者数単位数
1人 517単位
2〜9人 378単位
10人以上 341単位

薬剤師が、在宅で療養している要介護者に行う訪問薬剤管理指導を「居宅療養管理指導」といい、要支援者に行う場合は「介護予防居宅療養管理指導」といいます。2021年度の介護報酬改定によって、単一建物居住者数が月1人及び2〜9人の場合の単位数が引き上げられ、月10人以上の場合の単位数は引き下げられました。継続的な療養が必要で、かつ家族などの介護者の助けがなければ通院できない65歳以上の要介護1〜5または要支援1〜2の認定を受けている患者さん、あるいは40〜64歳の末期がんなどを含む16種類の特定疾病のいずれかにより要介護・要支援認定を受けた患者さんが対象となります。

特定疾病

  • がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)
  • 関節リウマチ
  • 筋萎縮性側索硬化症
  • 後縦靭帯骨化症
  • 骨折を伴う骨粗しょう症
  • 初老期における認知症
  • 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
  • 脊髄小脳変性症
  • 脊柱管狭窄症
  • 早老症
  • 多系統萎縮症
  • 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
  • 脳血管疾患
  • 閉塞性動脈硬化症
  • 慢性閉塞性肺疾患
  • 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

処方医の指示により利用者宅を訪問し、薬学的な管理指導を行い、処方医に訪問結果を文書で報告の上、ケアマネジャー及び処方医以外の医療関係者に対する必要な情報提供を行った場合に、月4回を限度に算定することができます。末期がん患者及び中心静脈栄養患者の場合は、週2回かつ月8回を限度に算定することができます。

居宅療養管理指導費または介護予防居宅療養管理指導費と同時に算定できる加算には以下の3つがあります。

  • 麻薬管理指導加算
点数
麻薬管理指導加算 100点

居宅療養管理指導費または介護予防居宅療養管理指導費が算定されている患者さんに麻薬の投薬が行われている場合に、麻薬管理指導加算として1回につき100点を所定点数に加算することができます。麻薬を調剤し、その服用及び保管の状況、副作用の有無等について患者さんに確認し、必要な薬学的管理指導を行う必要があります。

  • 離島や中山間地域等の要支援・要介護者に対する居宅療養管理指導の提供
単位数
特別地域加算 所定単位数の15%加算
中山間地域等における小規模事業所加算 所定単位数の10%加算
中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算 所定単位数の5%加算

離島や中山間地域等の要介護・要支援者に対する居宅療養管理指導の提供を促進する観点から、他の訪問系サービスと同様に「特別地域加算」、「中山間地域等における小規模事業所加算」及び「中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算」を算定することができます。「特別地域加算」は離島振興法、山村振興法等の指定地域等の特別地域に所在する保険薬局が居宅サービスを行う際に、「中山間地域等における小規模事業所加算」は特別地域の対象地域を除く豪雪地帯、過疎地域等の中山間地域等における小規模保険薬局(1月あたりの総訪問回数が50回以下、介護予防居宅療養管理指導算定が5回以下)が居宅サービスを行う際に、「中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算」は特別地域、中山間地域等に居住している利用者に対し、通常の事業の実施地域を越えて居宅サービスを行う際に加算することができます。

  • 新型コロナウイルス感染症に対応するための特例的な評価
点数
新型コロナウイルス感染症に対応するための特例的な評価 基本報酬に0.1%上乗せ

※2021年9月末まで

新型コロナウイルス感染症に対応するための特例的な評価として、全てのサービスについて2021年9月末までの間、基本報酬に0.1%上乗せすることとされています。請求にあたっては、上乗せ分のコードを合わせて入力することが必要で、これが行われない場合は全額返戻となるので注意が必要です。

在宅患者オンライン服薬指導料

単位数
在宅患者オンライン服薬指導料 45単位

2021年度の介護報酬改定によって新設されたもので、月1回に限り45単位の算定が認められています。居宅療養管理指導費を月1回算定していて、医師による訪問診療を受けた患者さんが算定対象となります。つまり、月に2回訪問を行っている利用者に対して、そのうちの1回をオンライン服薬指導に切り替えることを前提としています。処方医が訪問診療を行った際に処方箋が交付され、対面とオンラインを組み合わせた計画を作り、それに基づき薬局内で薬剤師がオンラインによる服薬指導を行うことなどが算定要件です。なお、オンライン服薬指導の際の麻薬管理指導加算等の加算は算定不可となっています。

在宅患者訪問薬剤管理指導料

単一建物居住者数点数
1人 650点
2〜9人 320点
10人以上 290点
加算 麻薬管理指導加算 100点
乳幼児加算(6歳未満) 100点

継続的な療養が必要で、かつ家族などの介護者の助けがなければ通院できない患者さんを対象に、処方医の指示により利用者宅を訪問し、薬学的な管理指導を行い、処方医に訪問結果を文書で報告の上、必要に応じて処方医以外の医療関係者に対する必要な情報提供を行った場合に、月4回を限度に算定することができます。末期がん患者及び中心静脈栄養患者の場合は、週2回かつ月8回までとされています。さらに保険薬剤師1人につき週40回までという制限があります。

在宅患者訪問薬剤管理指導料と同時に算定できる加算には以下の2つがあります。

  • 麻薬管理指導加算

在宅患者訪問薬剤管理指導料、在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料又は在宅患者緊急時等共同指導料が算定されている患者さんに麻薬の投薬が行われている場合に、麻薬管理指導加算として1回につき100点を所定点数に加算することができます。麻薬を調剤し、その服用及び保管の状況、副作用の有無等について患者さんに確認し、必要な薬学的管理指導を行う必要があります。

  • 乳幼児加算(6歳未満)

6歳未満の乳幼児に対して、薬剤師が訪問して薬学的管理指導を行った場合には、乳幼児加算として100点の所定点数への加算が認められています。患者さんの体重など必要事項の確認を行った上で、患者さんの家族等に対して適切な服薬指導を行った場合に算定することができます。

在宅患者オンライン服薬指導料

点数
在宅患者オンライン服薬指導料 57点

2020年度の診療報酬改定によって新設されたもので、月1回に限り57点の算定が認められています。在宅患者訪問薬剤管理指導料を月1回算定していて、処方医による訪問診療を受けた患者さんが算定対象となります。つまり、現在月に2回訪問を行っている利用者に対して、そのうちの1回をオンライン服薬指導に切り替えることを前提としています。処方医が訪問診療を行った際に処方箋が交付され、対面とオンラインを組み合わせた計画を作り、それに基づき薬局内で薬剤師がオンライン服薬指導を行うことなどが算定要件です。薬剤師1人につき週10回まで算定できるという制限があります。

在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料

点数
計画的な訪問薬剤管理指導に係る疾患の急変などに伴う場合 500点
上記以外 200点
加算 麻薬管理指導加算 100点
乳幼児加算(6歳未満) 100点

訪問薬剤管理指導を実施している患者さんの急変などに伴い、計画的な訪問薬剤管理指導とは別に薬学的管理指導を行った場合に1回500点を、計画的な訪問薬剤管理指導の対象とはなっていない疾患等に対応するために緊急に患者宅に訪問し、必要な薬学的管理及び指導を行った場合に1回200点を、合わせて月4回まで算定することができます。算定するためには、処方医の求めを受けて患者宅を訪問して薬学的管理指導を実施し、訪問結果を処方医に文書で情報提供することなどが要件となります。在宅患者訪問薬剤管理指導料と同様に、麻薬管理指導加算及び乳幼児加算を算定することができます。

在宅患者緊急時等共同指導料

点数
在宅患者緊急時等共同指導料 700点
加算 麻薬管理指導加算 100点
乳幼児加算(6歳未満) 100点

訪問薬剤管理指導を実施している患者さんの急変や診療方針の変更等の際、処方医の求めを受けて、患者さんに対する診療等を行う医療従事者等と共同でカンファレンスに参加し、共同で療養上の必要な指導を行った場合に、1回700点を月2回まで算定することができます。在宅患者訪問薬剤管理指導料と同様に、麻薬管理指導加算及び乳幼児加算を算定することができます。
また、以下を満たす場合は、ビデオ通話が可能な機器を用いて薬剤師が参加することができます。

  • カンファレンスに患者さんに対する診療等を行う医療関係者等の3者以上が参加すること
  • 3者のうち2者以上は、患者宅に赴きカンファレンスを行っていること

あるいは、

  • 保険薬局が、「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(2020年3月5日保医発0305第2号)の別添3の別紙2に掲げる医療を提供しているが医療資源の少ない地域に属していること
  • カンファレンスを月に2回実施する場合の2回目のカンファレンスであること
  • 2回目のカンファレンスに患者さんに対する診療等を行う医療関係者等の3者以上が参加すること
  • 1者以上は、患者宅に赴きカンファレンスを行っていること

退院時共同指導料

点数
退院時共同指導料 700点

保険医療機関に入院中の患者さんが退院後に在宅医療へ移行する際に、保険薬局の薬剤師が患者さんの同意のもと退院後に在宅での療養で必要となる薬剤に関する説明及び指導を医療関係者等と共同して行った上で文書により情報提供した場合に、入院中に1回のみ算定することができます。ただし、別に厚生労働大臣が定める疾病等の患者さんについては、入院中に2回まで算定できます。

厚生労働大臣が定める疾病等の患者さん

末期の悪性腫瘍の患者
(在宅がん医療総合診療科を算定している患者を除く)

イであって、ロまたはハの状態である患者

イ、在宅自己腹膜灌流指導管理、在宅血液透析指導管理、在宅酸素療法指導管理、在宅中心静脈栄養法指導管理、在宅成分栄養経管栄養法指導管理、在宅人工呼吸指導管理、在宅悪性腫瘍患者指導管理、在宅自己疼痛管理指導管理、在宅肺高血圧症患者指導管理、在宅気管切開患者指導管理を受けている状態にある者
ロ、ドレーンチューブ又は留置カテーテルを使用している状態
ハ、人工肛門又は人工膀胱を設置している状態

在宅での療養を行っている患者であって、高度な指導管理を必要とするもの

また、以下を満たす場合は、ビデオ通話が可能な機器を用いて薬剤師が参加することができます。

  • 保険薬局が、「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(2020年3月5日保医発0305第2号)の別添3の別紙2に掲げる医療を提供していて、医療資源の少ない地域に属していること
  • 共同指導の際に患者さんに対する診療等を行う医療関係者等の3者以上が参加すること
  • 3者のうち2者以上は、入院保険医療機関に赴き共同指導を行っていること

在宅患者重複投薬・相互作用等防止管理料

点数
残薬調整に係るもの以外の場合 40点
残薬調整に係るものの場合 30点

在宅患者訪問薬剤管理指導料、在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料及び在宅患者緊急時等共同指導料を算定している患者さんに対して、薬剤服用歴に基づき、重複投薬、相互作用の防止等の目的で、処方医に対して照会を行い、処方に変更が行われた場合は、処方箋受付1回につき所定点数を算定します。ただし、薬剤服用管理指導料、かかりつけ薬剤師指導料、かかりつけ薬剤師包括管理料算定患者は算定対象外です。

団塊の世代が75歳以上となる2025年以降は、国民の医療や介護の需要が、さらに増加することが見込まれます。このため、厚生労働省は地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しており、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしく暮らせることを目標としています。これに伴い、切れ目のない在宅医療や在宅介護の提供体制を構築することが求められています。薬剤師としても、2015年に策定された「患者のための薬局ビジョン」ではかかりつけ薬剤師・薬局による在宅医療への積極的な対応が掲げられており、在宅訪問に関わる報酬はますます評価されていくことが考えられます。

まずは現在の在宅訪問に関わる報酬についてしっかりと理解しましょう。そして、普段薬局に来局されていて、服薬状況に不安があり通院が大変そうに感じられる患者さんにお声かけして、在宅医療の選択肢を提示するところから始めてみてはいかがでしょうか。

参考書籍:平成30年度版 薬局薬剤師における在宅業務マニュアル(なの花北海道在宅推進委員会 編)

在宅患者訪問薬剤管理指導料の請求方法は?

在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定し請求するためには、あらかじめ、薬局の名称や所在地、開設者の氏名、訪問薬剤管理指導を行う旨を地方厚生(支)局へ届け出る必要があります。 居宅療養管理指導費を請求するためには、各都道府県の国民健康保険団体連合会に対して、受領のために口座などの届出が必要です。

在宅訪問薬剤管理指導料の点数は?

単一建物診療患者の人数で点数が変わる 同じ建物の中で1人に対してのみ薬剤指導をする場合には650点を算定することができます。 しかし、同一建物内で2人以上9人以下の患者に対して指導を行う場合には320点となります。 それ以外の場合、同一建物内で10人以上の場合などは290点となります。

在宅患者訪問薬剤管理指導料 月何回?

在宅患者訪問薬剤管理指導料は、単一建物の患者数によって診療報酬点数が異なります。 いずれの場合も、患者さん1人あたり4(末期の悪性腫瘍の患者等の場合は週2かつ8)まで、保険薬剤師1人につき週40までが限度です。

薬学的管理指導計画書 誰が書く?

薬剤師はその内容に基づき、訪問でおこなう指導内容や訪問回数・頻度などをまとめた「薬学的管理指導計画書」を作成し、在宅訪問を実施します。 訪問後は医師への報告を作成・提出し、計画書は最低でも月1回、または処方変更があった際に見直し・再発行をおこないます。